信濃毎日新聞ニュース特集「2006長野県知事選」
「改革後戻りさせぬ」握手攻め村井さん、表情は硬く
2006年8月 7日掲載
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 「若い人も、この地に生きて良かったと思える県にする」。6日投開票の知事選。初当選した新人の村井仁さん(69)は日焼けした顔で口元を引き締め「そのための捨て石になれれば」と決意を述べた。県内の民選知事で初の現職落選となった田中康夫さん(50)は「人に仕える知事として働く場を与えていただいたことに感謝する」と頭を下げた。4年前、圧倒的な支持を得た田中さんだが、「劇場型」手法への批判などから支持を大きく減らした。村井さんを支持した有権者からは「停滞している県政の立て直しを」との期待と同時に「さまざまな立場の人の意見に耳を傾けて」と注文も出た。

 村井さんの支持者たちは、長野市内のホテル大広間に集まり開票結果を待った。午後9時21分、SBCテレビの信毎開票速報が村井さんの当選確実を伝えると、詰め掛けた300人ほどの支持者から一斉に、「おー」「万歳」の掛け声と拍手がわき起こった。

 「よかった」「やったぞ」と握手を交わす支持者たち。午後9時半すぎ、濃紺のスーツにストライプのネクタイを締めた村井さんが会場に姿を見せると、支持者は総立ちになって、ひときわ大きな拍手で迎えた。

 通路を歩む村井さんに握手の手が次々伸びる。しかし、村井さんに笑顔はなく、緊張にこわばった表情だ。

 「県内を歩いて、混乱と疲弊を見た。本当に責任の重さを、あらためて実感している」。あいさつの間も表情は崩れない。報道各社のインタビューの最後に、どんな県にしていきたいかを問われ「県の宝は人。若い人を含め、この地に生きて良かったと思える県にしたい」と言ったとき初めて表情がゆるみ、花束を受け取ると笑顔になった。

 現職以外の候補擁立を模索した「輝く明日の長野県を考える会」(代表世話人・近藤光連合長野会長ら)から出馬要請を受けた日、「まさか自分に降ってくるとは」と周囲に漏らしていた村井さん。しかし、立候補を決意してからは「対話と実行」を重視した。

 7月30日。長野市篠ノ井の夏祭りで街頭活動した際、座り込んでいた女性(40)の言葉に足を止めた。「厳しい生活をしている人の話も聞いてほしい」。村井さんも腰をかがめ耳を傾けた。女性は数分間、強い口調で母子家庭の子育ての厳しさを訴えた。村井さんも母子家庭で育った。「みなさんの声を聞いていく」と答え、翌日の演説から、福祉の充実にかける思いに時間を割いた。

 一方、衆院議員を6期務め、元国家公安委員長兼防災担当相という肩書に、「国とのパイプ役」を期待する県民も少なくなかった。

 7月29日午前7時半、下伊那郡平谷村の役場前には人口の約1割に当たる60人ほどが、村井さんの話を聞きに集まった。「仲間うちでは、小さい村が生き残っていくためには公共事業への投資がもう少しほしいと話している」と60代女性は話した。

 ただ、田中さんの進めてきた県政改革の方向は、今回の選挙でも多くの支持を集めた。その声をどう受けとめていくか。村井さんは「改革を後戻りさせない」「(田中さんに)求めた理念を、私も大事にしていく」と話した。

     ◇

 村井さんは午後11時時すぎ、松本市筑摩にある事務所に入り、廊下まであふれた4、500人の支持者に「ムライ」コールで迎えられた。村井さんは終始控えめな笑顔で、「今はまず、みなさんのお話を精いっぱい聴きたい。田中さんが得た53万票に込められたメッセージを理解し、配慮する」。支持者からは「本当の改革をしてくれ」との激励が続き、最後は万歳三唱で祝った。

【写真説明】支持者から花束を贈られ、笑顔を見せた村井仁さん=6日午後10時、長野市内


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