信濃毎日新聞ニュース特集「2006長野県知事選」
情報発信に公選法の壁 候補への政策質問・アンケート
2006年8月 4日掲載

 「助産師の活用と活動支援について、どのようにお考えですか」「小児科、産科、麻酔科医師の配置について、県の果たす役割をどうお考えですか」−。長野市篠ノ井の主婦、宇敷香津美さん(28)は知事選告示後の7月21日、届け出順に新人の村井仁氏(69)、現職の田中康夫氏(50)双方の選挙事務所に「お産・子育て政策アンケート」を郵送した。
 アンケートは、宇敷さんも参加している母親グループ「お産を語る会うむうむネット」(長野市)と、飯田下伊那地域の「心あるお産を求める会」、上小地域の出産・育児ネットワーク「POPUPMOM」が協力して計画。6月から準備を進めてきた。
 29日までに両氏から回答があり、宇敷さんは公開方法を県選挙管理委員会に相談した。
 が、県選管は、選挙期間中のため、回答の公開は「公職選挙法で禁止される『文書図画の頒布』に該当する恐れがある」と指摘。また、「回答を強要され選挙運動に支障を生じるとして、選挙妨害と取られる恐れがある」とも注意した。
 宇敷さんは、回答の公開について両候補側に伝えていたが、県選管の指摘を受け、個人のホームページ(http://www.k2.dion.ne.jp/~usiki/tiji-top.htm)での掲載を見送った。代わりに、知事選の特集を掲載しているインターネット新聞に回答を載せるよう頼み、自身のホームページからアクセスできるようにした。
 「政策の違いを知った上で投票したいと考えたのだけど」。宇敷さんは意外な制約に戸惑う。
 生活クラブ生協の組合員らでつくる政治団体「信州・生活者ネットワーク」(岡谷市)も7月13日、公開質問状を両候補に出した。立候補の動機や、遺伝子組み換え作物への対応、廃棄物処理の具体策などを聞き、こちらは同22日までに得た回答をホームページ(http://www.lcv.ne.jp/~ssnet/)に掲載している。
 同ネットワーク代理人の一人で、諏訪市議の佐藤よし江さん(51)は「純粋な政治活動で、いわゆる選挙運動とは目的が違う」と、公開した理由を説明している。
 公選法は、「カネのかからない選挙」や「候補者間の平等性確保」の観点から、選挙運動での「文書図画」の使用を細かく規制。ホームページも文書図画とされ、選挙運動での使用は禁止されている。市民団体や個人の使用の規定はないが、総務省選挙課は「候補の名前を記載して掲載すれば、文書図画の頒布とみられる」との見解だ。「純粋な政治活動なら支障はない」(同課)が、その線引きは明確でない。
 こうした公選法の現状について佐藤さんは、「市民参加型の選挙にするには、有権者個々が関心のある政策を候補にただし、情報発信できる制度が必要」と指摘。宇敷さんも「市民も自由に候補に考えを尋ね、公表できる制度があれば、政治の質を高めることにつながる」と感じている。
 自民、民主、公明の国会議員と有識者で5月に発足した「国民主役の新しい公職選挙法を考える会」のメンバーで、日大法学部の田中宗孝教授は「ある候補者の支持者か第三者か、客観的に判別できない以上、文書図画の規制すべてをなくすのは困難。ただ市民参加の意義を考えれば、ホームページだけでも規制を外し、候補者も市民も自由に発言できるようにすることは現実的な選択だ」と話している。


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