信濃毎日新聞ニュース特集

記録的大雪(2005-2006)

つかの間の安堵 秋山郷への唯一の道、あわただしく
2006年1月14日掲載
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 下水内郡栄村秋山地区につながる冬期間唯一の道路、国道405号が一時的に通れるようになった13日午後。道路は、孤立状態に置かれていた住民と、空けていた秋山地区の自宅を目指す住民や物資を運ぶ人たちが、あわただしく行き交った。再会を喜ぶ人、買い出しに追われる人、誰もが安堵(あんど)の表情を見せた。しかし、その活気も、午後5時をすぎて新潟県津南町で再び国道が閉鎖されるとあっという間に消え、国道は暗がりに沈んでいった。
<買い出しへ>
 午後2時半、栄村秋山地区で民宿を経営する島田司さん(48)、とも子さん(48)夫婦のワゴン車が、津南町役場近くの旅館に現れると、町内に住む司さんの父猛さん(74)夫婦が駆け寄った。「元気そうで良かった」
 島田さん夫婦は、長男の高校3年生洋平君(18)、二男の中学2年生裕平君(14)と来た。裕平君は栄中学校に通学するため、これから猛さん宅に滞在する。
 島田さん夫婦と進路が決まっている洋平君は、限られた時間を惜しむように買い出しに走った。
 量販店では、連日の除雪作業で壊れてしまった除雪用具2台と、トイレットペーパーを購入。スーパーでは、卵、牛乳、ヨーグルト、パンと、食料品がカゴに積み上がった。1カ月半ぶりに会った知り合いの主婦(65)が「元気そうで良かった」と声を掛けた。
 帰り際、郵便局に立ち寄り、出せなかった年賀状約100枚を投函(とうかん)した。とも子さんは「年賀状を見て、友達や親せきが安心してくれると思う」と話した。
<再び道閉鎖>
 栄村秋山地区で旅館を営む村議相沢博文さん(58)は午後3時、村役場を訪ね、自衛隊による除雪状況や、住民が協力して除雪した様子などを伝えた。用事を済ませると、すでに日は傾いていた。
 津南町見玉の通行止め区間が始まる地点では、午後5時近くになると、車の出入りがだんだんと増えた。新潟県警の警察官らが通行車両を1台ずつチェックしていた。
 午後5時半ごろ、ハンドルを握りながら相沢さんは、帰路の通行止め区間で「まだ雪崩の危険はありそう」と言った。秋山地区に戻ると、雑貨店やガソリンスタンド、民家の明かりが雪道を照らしていた。家路へと向かう住民に、相沢さんは車の窓を開けて「おやすみ」と声を掛けた。
 津南町見玉では午後5時45分、国道が再び閉鎖された。
<やっと帰宅>
 近藤春雄さん(58)、ヤス子さん(56)夫婦は、秋まで栄村秋山地区の自宅で民宿を、冬は下高井郡野沢温泉村でスキー場のレストランを経営している。正月明け、除雪のため自宅に戻ろうと思っていた矢先に国道が通行止めになった。
 国道が通れるようになる午後2時を前に、夫婦は津南町内で食料や燃料を買いだめした。「卵、あったっけ」「野菜や魚は冷凍保存してあるから、すぐに食べられるもので十分だよ」。牛乳3本、食パン2斤などで段ボール箱はあっという間にいっぱいになった。
 午後3時すぎに到着した13日ぶりのわが家。自宅前の雪は高さ4メートルほどもあった。近所の知り合いに頼み、事前に玄関先の雪を取り除いてもらっていたものの、家の北側と西側は1階部分が雪で埋まっていた。玄関の扉にたどり着くまで約十分、雪をかいた。
 真っ暗な1階は、底冷えがした。その中で、ヤス子さんはコーヒーを入れた。1口飲むと「とにかく家が無事でよかった」。ようやく笑顔が広がった。
<病院に通院>
 津南町立津南病院は、孤立地区からの受診者を緊急対応と同じように診療する予定だったが、長野県の医療チームが同日、栄村秋山地区の村診療所に入り診療を受け付けたこともあり、訪れた人はまばらだった。
 家族の車で訪れた秋山地区の農業阿部ミユキさん(74)は、ひざの張り薬や血圧を下げる薬など1カ月分を受け取った。「(薬はまだあるが)切れないうちに―と取りに来ました。これで安心」とほっとした様子。「食料もついでにね」と言い残すと、足早に病院を立ち去った。
【写真説明】新潟県津南町のスーパーで食料品を買い込む島田とも子さん(中央)。町内で暮らす知り合いの女性が「大変だね、様子はどう」と声をかけた=13日午後3時15分


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