信濃毎日新聞ニュース特集

大雨被害

続く崩落の不安…疲れ 伊那市高遠、岡谷で避難指示
2006年7月22日(10:52)

 「風もないのに山肌の広い範囲の木がガサガサと揺れた」。伊那市高遠町藤沢松倉の地滑り現場。21日午前、監視していた伊那建設事務所職員は崩落の前兆と感じ慌てて避難したという。
 高遠消防署に20日午後3時ごろ、地元住民から「山が動いている」との通報があった。上伊那地方事務所によると、地滑りは松倉地区を流れる松倉川左岸の山腹約2キロに、幅40−150メートル、高さ50−80メートルの規模で3カ所発生。木と木の間にできたすき間が山腹を横切って見える。19日には同区間の沢で土石流も発生した。
 21日、現場を視察した信大農学部森林科学科の小野裕助手は「土砂の動きは比較的落ち着いているが、地下水位が高くなっているので、雨が降らなくても監視する必要がある」と指摘した。
 市は午前11時半、松倉、御堂垣外地区の住民に避難指示を出した。午後5時半現在、175人が地元の集会施設に避難。松倉区長の藤沢次夫さん(63)は「20日は、はんらんした水路の対応に追われ、やっと安心して寝られると思っていたのに。早く帰れればいいが」と不安げに話した。
 一方、土石流災害が発生した岡谷市湊で21日朝、「山が動いた」との目撃情報があったために付近の188世帯の住民に出された避難指示は夜になって、市から「シカの動きを見誤った可能性がある」との説明があり、避難所に集まった住民に安堵(あんど)と疲れの表情が交錯した。
 19日の土石流災害で岡谷南部中学校体育館に避難していた60人余が今回の避難指示で移動を強いられた田中小学校体育館。午後8時近く、市災害対策副本部長の北沢和男教育長が「専門家の調査では、地盤が動いたのでなく、大量のシカが木々を揺すった可能性がある。ただ、避難指示の解除は明日の調査結果が出てから」と説明した。
 勤務先に家族から連絡があり、何も持たずに体育館にやって来たホテル勤務の小口恵梨子さん(22)は「ほっとしたけれど、まさかシカとは」と困惑した表情だった。
 市災害対策本部によると午前9時ごろ、山腹の木々が波打った後、ずり落ちるように動いたのを市職員が目撃したという。しかし、現地を調べた信大農学部の北原曜教授(治山工学)は「シカが最近、樹皮を食べた跡が木々の幹に多く残っていた」と話す。
 災害対策本部長の林新一郎市長は「シカであるにせよ、山が動いたのは確実。住民の安全が第一で、時が時だけに避難指示は当然の行動だった」と話した。


<前の記事 大雨被害 トップ 次の記事>

掲載中の記事・写真・イラストの無断転用を禁じます。
Copyright© 信濃毎日新聞 The Shinano Mainichi Shimbun