信濃毎日新聞ニュース特集「2006長野県知事選」
豪雨で「防災」争点に 災害の中、選挙戦スタート
2006年7月21日掲載

 豪雨災害に巻き込まれた行方不明者の捜索が続く中、20日の告示を迎えた知事選。新人の村井仁氏(69)は第一声で、国の補助を積極活用し、災害に強い県土整備を進めるべきだとの姿勢を前面に打ち出し、現県政が治水や治山に不熱心だった―と批判した。現職の田中康夫氏(50)は、災害対応の公務を優先しつつ、正午すぎの第一声ではゴルフ場などの開発が災害を引き起こす可能性にも言及。森林保水力の重要性を訴えた。災害を防ぎ、被害を最小限に食い止めるため、県政は何に取り組むべきなのか。選挙戦の大きな争点に浮上してきた。
<村井氏>
 「田中県政は公共事業を削ることに熱心。防災にかかわる仕事がなおざりにされた。本来は環境、治安、防災は(県の役割として)言わずもがなだが、それをやっていないことが(ここに)証拠となって現れている」
 20日午後、村井氏は土石流が発生した岡谷市湊の現場を住民の案内で視察。報道陣を前に、現県政を批判した。
 村井氏はこの日朝、長野市のJR長野駅前で行った第一声から防災服に長靴姿。岡谷市の被災地では、住民から復旧支援を求められ「一生懸命やる」と力を込めた。行方不明者の捜索や土砂の搬出に当たる地元消防団や自衛隊員らの活動をねぎらった。
 県土木部によると、土石流が起きた岡谷市内の四河川は、いずれも県が「土石流危険渓流」として把握していた。県内には同様の場所は6000カ所近くあり、県は順次整備を行っているものの、整備率は19%程度という。
 村井氏はこうした現状にも言及しつつ、「県は砂防関連予算を減らしている」と指摘。この日午後、塩尻市などで報道陣に「知事は国の補助金を受けるやり方が嫌いなようだが、何がいけないのか」「必要な公共事業をやっても、代わりに福祉の予算が削られるわけではない」と強調した。
 今回の豪雨災害の背後に、現県政の姿勢がある―と指摘することで、治山・治水政策を争点に取り上げる構えを見せる村井氏。併せて、陣営は被災住民の心情にも配慮する姿勢を示す。選対幹部の一人は「基本的に被災地へ選挙カーでは入らない。不安な生活を送る人もおり、市の広報や緊急車両などへの影響も考えた」としている。
<田中氏>
 「11年前の経験を私一人ではなく、(職員との)チームワークで貢献させていただく」
 田中氏はこの日午後、長野市内の選挙事務所で第一声を終えた後、報道陣に対し、1995年の阪神淡路大震災直後にバイクで避難所や仮設住宅を回ったボランティア経験を挙げ、それを県組織としてのきめ細かな被災者支援につなげていく姿勢を強調した。
 午前中、選挙活動は行わず、県庁で開いた大雨対策本部会議に本部長として出席。職員を、相談窓口となる「避難所お助けコンシェルジュ」として諏訪や上伊那地方の避難所に派遣することなどを指示した。
 第一声では、岡谷市の土石流災害にも言及。25年前、10人の犠牲者を出した須坂市宇原川の土石流災害を例に、「上流でゴルフ場などの開発が行われた。森林を切り倒し、保水力を失わせ、土石流を発生させたのではないかと県民の多くは疑問を持った」と指摘。さらに、19日に公務で上空から見た岡谷の土石流現場上流にもゴルフ場がある―と説明した。
 午後は再び県庁に戻り、知事として上小地方の災害現場を視察。道路が崩落、軽乗用車が転落した上田市の現場などを見て回り、「通行が確保できるよう(復旧を)行っていく」と話した。
 「公務優先」を明確にする田中氏の姿勢に、陣営の幹部は「本人が直接(有権者に)話すことで、支持の思いを固めてもらえるという思いはある」としつつ、「『220万県民とともに歩む』と言ってきている」と説明。現職として率先して災害対応に取り組むことで、有権者の理解も得られる―と期待した。


<前の記事 2006長野県知事選 トップ 次の記事>

掲載中の記事・写真・イラストの無断転用を禁じます。
Copyright© 信濃毎日新聞 The Shinano Mainichi Shimbun