信濃毎日新聞ニュース特集

大雨被害

「早く自分の元に…」耐える不明2人の家族
2006年7月25日(09:55)
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 豪雨による19日の土石流や道路陥没などで、岡谷市、上田市、上伊那郡辰野町の計11人が巻き込まれた災害が起きて25日で1週間。岡谷市湊3、花岡滋さん(75)と上田市新町、小林正子さん(57)の2人の行方が、依然分からない。早く見つけてあげたい―。それぞれの家族や知り合いは、つらい思いに耐えながら、発見の知らせを待つ。
 「できるならば最前線で捜索活動がしたい。でも、自分が舞い上がって飛んでいったら2次被害が起きてしまうかもしれない」。花岡滋さんの長男義樹さん(45)は地元の市消防団第7分団長。はやる気持ちを抑え、警察や消防署員らの捜索を見守りながら、支援活動に当たっている。
 19日未明。義樹さんは小中学校の同級生で第7分団員の小坂陽司さん=当時(45)=らと住宅地の上で、水が流れ込まないよう土のうを積んでいた。近くで滋さんが、自身が経営する鋳造工場から流出したごみを片付けていた。そこに押し寄せた土砂。夢中で高台に逃げて振り返った時、滋さんや小坂さんの姿はなかった。
 義樹さんは50人余の分団員とともに法被を泥だらけにしながら、道路の土砂除去や崩落危険個所の監視活動などをしている。湊地区ではこれまでに、6人が亡くなって見つかった。「つらいのは自分だけではない」。自分に言い聞かせるように捜索を見守ってきた。
 「(無償で集まってくる)団員に対する感謝の気持ちを忘れてはいけない」。かつて義樹さんと同様、第7分団長を務めた滋さんからよく言われた。今、その言葉を思い出しながら、仲間と一緒に作業を続けている。
     ◇
 「早く自分の元に帰ってきてくれること。それだけを願っている」。午後5時すぎ、この日の捜索が終わると、小林正子さんの夫で20年以上、夫婦で新聞販売店営業所を営んでいる達さん(61)は、自宅で言葉少なに言った。
 この日は、正子さんの軽自動車が転落したとみられる産川と、千曲川が合流する地点付近を中心に、警察官や消防署員らが捜した。これまでの捜索には、自治会の人や新聞販売店社員らも参加。「捜索範囲が広く、皆さんに迷惑をかけていると思うが、ご協力がなければできない。感謝している」と達さん。
 正子さんは新聞販売の仕事を始めるまで、体育の教員だった。丸子北中学校(上田市)時代の教え子で正子さん宅の近くに住む東川芳恵さん(37)は、涙をこぼしながら「先生は必ずどこかで生きているはず」と言葉を詰まらせた。
 毎朝、自分で約30世帯に新聞を配達し、他の配達員に新聞を届けていたという正子さん。陥没現場近くに住む建築業の男性(52)は、朝の犬の散歩に出掛けるときに正子さんとよくあいさつをしたという。「誰もが考えていることと一緒。早く見つかってほしい」と話した。
【写真説明】上田市の千曲川で小林正子さんを捜索する上田署員=24日


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