信濃毎日新聞ニュース特集「2007県議選」
「無医地区」現状知って 過疎化と高齢化進む山間部
2007年4月 5日掲載
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 高齢化や医師不足を背景に、医療態勢の充実を訴える県議選候補は少なくない。集落の半径4キロ以内に医療機関が一つもないなどの「無医地区」は、県内に19地区。国、県、市町村が支援策を展開するが、いずれも山間地域にあって、著しい過疎化と高齢化が進む。8日の投開票日が迫る中、4人が立候補している下伊那郡区の無医地区で有権者の声を拾った。
 5軒の民家がある泰阜村栃城。集落の一番奥、標高920メートルの斜面に立つ一軒家で、小山幸啓さん(83)は1人で暮らす。3日、約15キロ離れる同郡阿南町の県立阿南病院へ向かった。山道を800メートルほど下った隣家まで電動三輪車で行き、そこから村の福祉バスに乗り換える。
 小山さんは目が悪く、眼科を受診したい。だが、昨年度から眼科の常勤医がいなくなり、現在の同病院の眼科診察日は週1、2日。木曜日が中心で、福祉バスが運行する火曜日と合わない。
 この日、内科外来で1時間半ほど待たされた。「医者が少ないのか、混雑はいつものこと」と言う。
 「昔は病人が出れば、だれかが背負って山を下りるか、先生(医師)を呼びに行くかした」。今は道路も整備され、福祉バスも通っている。
 病院に行くついでに食料品などを買って帰る。「住めば都で栃城を離れるつもりはない」。だからこそ、県議には「この地域のつらさを分かってもらい、医者が病院に来るように何とかしてもらいたい」と望む。
 隣接する天龍村は、昨年10月現在の高齢化率が50・2%で県内市町村で最高。愛知県境に近い、無医地区の坂部地区には20世帯37人が暮らす。終戦後に地区内の開業医が亡くなり、医療へのアクセスがしにくい状態が長く続いている。
 「近くに医師がいてほしいが、このへき地では無理だろう」。1人暮らしの高齢者を見回る地区の民生委員、関トクミさん(70)はそう話す。夫の喜男さん(73)は3月、腸の病気で片道1時間半の飯田市内の病院に入院し、手術を受けた。近くに大きな病院がある市部との環境の違いを実感したという。
 トクミさんは、ふだんは村診療所にかかり、重い病気やけがは大きい病院に行く連携を維持するのが「いちばん現実的」と考える。喜男さんは「地域の医療格差の問題を、まず候補に知ってほしい」と思っている。
 今県議選で4日現在、栃城、坂部両地区に遊説に入った候補はいない。
【写真説明】県立阿南病院まで40分ほどかかる天龍村坂部地区。村は高齢化率が県内で最も高く、医療サービスの拡充を求める住民は多い


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