信濃毎日新聞ニュース特集

トリノ冬季パラリンピック

躍進ニッポン(上) 五輪に近づく選手強化
2006年3月21日掲載
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 19日に閉幕したトリノ冬季パラリンピックは、メダルの価値を上げるなどの理由から、スキー2競技で立位、座位、視覚障害の3区分制が導入された。障害の程度によって細分化されていた種目数が92から58にほぼ半減。厳しい条件下にありながら、日本勢は金2個を含む計9個のメダルを獲得。銅3個だけだった前回の米ソルトレークシティー大会の雪辱を果たした。好成績を収めた背景や次回大会につなげていく上での課題を、現地から報告する。
   (トリノ=井上典子)
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 「技術系で挽回(ばんかい)できた」と、アルペンスキー日本チームの松井貞彦監督。同競技の日本勢は、前半のスピード系種目では大日方邦子(NHK・東京)の銀2個だったが、後半の大回転、回転でメダル獲得が相次いだ。最終日の女子回転で、今季前半の不振から復調した青木辰子(長野協同データセンター・長野市)が3位に入り、チーム6個目のメダルを取った。
 ノルディックスキーはバイアスロン2種目の女子で計3個。走力で上回る海外勢に勝つため、銃に重点を置いたバイアスロン重視の強化策が実った。前回大会と同じ5位だったものの、アイススレッジホッケーは1次リーグ、順位決定戦の計5試合で3勝1敗1分け。勝率では前回を上回り、レベルアップを印象付けた。
 3競技とも、「障害者」の枠を超えて、健常者スポーツから専門の指導陣を入れ、継続的な強化日程を組んだのが特徴だ。アルペンの松井監督らは全日本スキー連盟(SAJ)からの派遣。短期間ではあったが、元五輪選手をコーチに招いた。
 アイススレッジホッケーでも、NCAA(全米大学体育協会)でプレー経験がある中北浩仁監督を起用。それ以前とは戦術が大きく変化。選手たちに戸惑いも生じさせたものの、同監督は「アイスホッケーの戦術」を前面に打ち出し、徹底を図ってきた。
 ノルディックスキーを含め、こうした指導陣が科学的な分析に基づく練習やメンタルトレーニングなどを導入。障害者スポーツの選手強化方策は、五輪選手・チームなどに近づきつつある。
 それを可能にした背景の一つに、形は異なるが、企業の支援を得られたことがある。アイススレッジホッケーは日立グループ16社が1千万円単位の資金を支援。ノルディックでは、バイアスロンで金、銀メダルを取った小林深雪(日立システム・北安曇郡小谷村出身)らのように、企業に所属し、競技優先の生活を送れる選手が出てきた。大会会場には、日立システムの幹部らが応援に駆けつけた。
 ノルディックの荒井秀樹監督は、伝田寛(長野市役所・長野市)、小林稔(松本盲学校・松本市)について、「企業所属選手と同じような練習環境が整っていれば、2人はもっと上位を狙えた」と話す。4年後のカナダ・バンクーバー大会に向けて強化を進めるには、障害者スポーツに対するより広範な支援が重要になる。
【写真説明】バイアスロン12・5キロで金メダルを獲得、日本勢に弾みをつけた小林深雪(右)、左はガイドの小林卓司コーチ=11日、プラジェラート距離競技場(井上典子撮影)


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